屋根裏の崩壊

二者択一で選択を迫るのはずる賢い手法だな、と最近気づいた。「賛成か反対か、どちらか選んでください」と提示されると、「一概に賛成とは言えないけど、どちらかといえば賛成」と思っている人は、賛成票を投じることになる。二者択一で提示される選択肢は、両者が完全なトレードオフの関係になっているので、その人の選択は「賛成100パーセント、反対0パーセント」の意味になって記録される。これがちょっと恐い。

優柔不断と言われるが、その曖昧さの中に輝くアイデアが隠されていることがある。ぼんやりとして言語化できない部分を、粘っこく根気よく考えることで名案が生まれたりする。だけど、その地道な努力ってやっぱり面倒なので、さっさと諦めて安易に白黒つけて逃げてしまう。だから、この怠け者の性質をうまく利用して、二者択一をうまく利用する切れ者がいる。アンケートの作り方とかも巧妙で、回答者から不都合な意見を求めたくないときは、思考停止でどちらかにチェックを付ければいいように、二者択一の選択肢を準備する。最後の質問に「自由記述欄」なんてあっても、脳味噌はYes/Noで答えるモードにチューニング済みだから、「さあ書くぞ」って気持ちになれない。うまく回答者をコントロールしているなあと感心する。

二者択一の選択肢にノミネートされなかった無数のアイデアたちは、社会の屋根裏に放り投げられて、思い出されることもない。でも、それらは消えてしまうのではなくて、少しずつ、少しずつ、積もっていき、二者択一が蔓延る世界に繋がる分厚い床板を軋ませてきた。最近、ついに重みに耐えかねた床板が、音を立てて外れた。これまで捨て去られてきた数多の選択肢たちが解き放たれ、「多様性を認める」とか「ジェンダーレス」という分かりやすい言葉に変わりながら、大きなうねりになっている。さあ、大変。これからは、あふれる選択肢が荒波に変わって襲ってくるだろう。二者択一で逃げ勝ってきた人々は、生き抜くことができるか。これまで捨て去られてきた選択肢に、挑まれる時代がきている。

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